「オークン、チュラ~ン」(ありがとうございます)
店員の女の子がはにかみながらまだ慣れない手つきでお釣りの300リエルを丁寧に渡してくる。
この行きつけのカフェの店員さんとのやりとりが僕の毎日の日課だ。
プノンペンに来て2週間が経った。
当初の予定では、6月16日のワールドカップ2次予選カンボジアvsアフガニスタン戦を見て、他の国へ行く予定だったが、気がついたら2週間も滞在してしまっている。
オリンピックスタジアムで行われたカンボジア代表戦で、観客の「熱」を肌で感じ、この国のフットボールには底知れぬ可能性があると確信した。と同時にあの「熱」は一体どこから来ているのだろうという疑問も生まれ、そこを突き詰めてみたいと強く思った。
そして、もう一つ
この地で奮闘するある日系フットボールクラブの魅力に取りつかれてしまったからだ。
この2週間、僕が現地で経験し、感じたことを数回に分けて紹介していきたいと思う。
近年、世界中から注目されている東南アジア。
その中でもここカンボジアの首都プノンペンは急速な発展を続けている。
ほんの10数年前までカンボジア国内は内戦状態で国民の3人に1人が飢餓で苦しみ、外国人が集まるようなレストランの外には地雷の影響のせいで手足がない人やストリートチルドレンで溢れていた。
夜になると、街灯が少ないせいで町は暗闇に覆われ、時には銃声も聞こえてきたほど、治安は悪かった。
ところが現在のプノンペン市内は、トヨタ、フォード、、ベンツ、フォルクスワーゲンなどの高級車が走り、お洒落なカフェや日本料理店、それに日本の大型スーパーであるあのイオンもできた。飢餓率はここ15年間で半減した。
他の国よりも、外資が参入するのが容易なこともあり、カンボジアはたった数年で急成長を遂げた。
しかし、街の所々にはまだスラム街のような場所も多く残っており、家族全員合わせて1日1ドル以下で暮らす人も多い。これほどまでに格差のある人が隣立って生活している都市も珍しい。
そんなプノンペンの郊外に今季からカンボジアリーグに参戦する日系クラブ・カンボジアンタイガーFCの事務所はあった。
6月中旬、泥棒に入られ、パソコンなど30万円相当の被害に遭ったというから治安は決して良くはない。
カンボジアンタイガーFCは今年創設され、「メットフォンカンボジアリーグ」に参戦する日系クラブ。
※メットフォンは現地の通信会社でリーグの冠スポンサー
※カンボジアンタイガーFC創設までの経緯
プノンペンに着いて友人である吉田GMとコンタクトを取り、事務所を訪問し、練習見学へ。
練習場所は、事務所から歩いて5分のところにある「ウエスタンスタジアム」
同じカンボジアリーグ所属のウエスタンFCというクラブ所有の今季新しく建設されたスタジアムだ。(人工芝)
スタジアムを持っていないタイガーFCは今季のホームゲームはここで全試合行なう予定だ。
※カンボジアリーグは去年まで市内中心部のオールドスタジアムとオリンピックスタジアムの2箇所のみで開催され、ホーム&アウェーがなく、サポーターというサポーターが生まれにくい環境であった。
しかし、今年はここウエスタンはじめ、昨年の覇者クラウン、ベトナムとの国境そばの田舎町・スバイリエンなどスタジアム建設ラッシュが続き、ようやくホーム&アウェーが行える環境が整った。
カンボジア代表はかつてアジアカップで4位になるなど実績はあったが、内戦の影響で全てが失われてしまった。
そして、今年3月に史上初めてワールドカップ1次予選を突破し、代表戦の時のスタジアムは超満員になり、人々の間でサッカーが話題になりつつある。
日本が1993年にJリーグが開幕して盛り上がったように、今年がカンボジアサッカーの元年といえるだろう。
そして、このサッカー人気を国内リーグのほうにも繋げたい。
7/2のリーグ開幕戦に向けて現地で奮闘しているのがこのカンボジアンタイガーFCだ。
そのタイガーFCのスタッフを紹介したいと思う。
日本人スタッフは2人。
吉田GM(左)
トライアジアの撤退によってチーム解散の危機の時に全財産を叩いてクラブ買い取り、タイガーFC創設のために尽力。現地はチーム、選手の管理からリーグの登録など事務的な仕事、それに試合ではこのような表に出ない作業もこなしているオールマイティなGM。彼がいなかったらこのクラブはできていなかった。
今春、新卒で入社した辻井翔吾くん。
普段の練習の手伝いはもちろんのこと、毎日近くの各種学校やフットサルコートなど集客、タイガーFCの認知度拡大のためにプノンペン中を全力でかけ回っている。彼の努力のおかげか、試合を観に来てくれる人もどんどん増えており、これからが楽しみな23歳。
また、事務所で現地の法律関連はじめ、事務手続きを担当するモイちゃん。
試合や練習など手伝いに来てくれるウドン。彼がいることで選手達も安心して練習ができると言っており、存在感は十分。
二人とも昨年のトライアジア時代よりスタッフとして働いており、経験豊富なスタッフでタイガーFCがカンボジアサッカー界で成長するためには彼らの力が必要不可欠である。(※写真がない為、後日紹介します)
監督は、元大宮、福岡などで活躍した木原正和選手。
過去の実績から言ってカンボジアでは一つも二つも抜けており、日本でのJクラブでのプレー経験も豊富であることから新チーム設立前から監督に抜擢。昨年、1年間カンボジアでプレーした経験から選手からの信頼は熱く、カンボジア人選手にとってアジアトップレベルである日本のサッカーを学べる貴重な機会だと言える。初の監督業、しかも選手との兼任というからその苦労は僕らの想像を絶すると思う。チームを勝利へと導くために日々の努力を惜しまないイケメン監督だ。
GKコーチは吉田康幸選手。
カンボジアリーグで3年目を迎え、経験は豊富なことからコーチを選手兼任で務める。
安定したセービングで後方からチームを支えることで安定感をもたらす。また、GKのレベルがあまり高くないカンボジア人にとって彼の存在は本当に大きい。毎日の練習で彼の指導を受けているカンボジア人GK達が目を輝かせて話を聞いている姿が印象的。個人的に話がとても面白いので今度飲みに行きたいとひそかに思っている。
通訳のカンボジア人スタッフ・ノイ(右)
若干21歳ながら日本語堪能でカンボジア人選手との橋渡ししてくれる存在。
チームのいじられ役でもあるため、通訳以上の仕事をもしていると僕は思っている。
そして、タイガーFCの加藤明拓オーナー
高校時代に全国大会優勝経験があり、自身も優秀選手に選ばれたこともある有名なサッカー選手だった。カンボジアリーグの選手登録を目指し、現在も7/2の開幕戦に向けてトレーニング中のようだ。カメルーン人選手との外国人枠を争い、日本人初のオーナー兼選手の誕生となるか。
※選手は後日紹介予定。
チームのために毎日、それぞれのフィールドで奮闘している素晴らしいメンバー。
この2週間一緒にいたことで彼らの苦労と情熱の両方を知ることができた。
練習見学前、木原監督から僕のことを選手の前で紹介してもらうことになり、話をすることになった。
こんなにも多くのサッカー選手の前で通訳を入れて話すのは初めてだったが、カンボジア人の選手たちは穏やかな表情で僕の話を聞いてくれたこともあり、楽しく話すことができた。
スタンドに座って、練習を観戦することにした。
選手に対して指導している木原監督の声が聞こえてくる。
カンボジア人選手たちの表情も真剣そのものだった。
彼らの表情から「もっとサッカーがうまくなりたい」という気持ちが伝わってくる。
僕もハエや蚊と戦いながら見守った。
練習後、翔吾んが近くの大学にチームの宣伝に行くというので同行させてもらった。
訪れたのはスタジアムから10分の距離にあるロイヤルプノンペン大学。
なんでも、カンボジアの中でも最も賢いと言われているカンボジア版東大らしい。
今回、訪れた目的は21日に行われるトレーニングマッチの宣伝。
この告知チラシを持って生徒一人ひとりに話しかけて、スタジアムに観に来てもらおうという作戦だ。
校舎の前でボールを蹴ったりしている学生の姿がちらほらいる。
翔吾くんが動き出した。
彼らの姿を見つけるやいなや、すぐに話しかけにいった。
カンボジア人は、お隣の陽気なタイ人と違って、あまり自分の個を表に出したがらない。
それは内戦で知識人を否定し虐殺したクメール・ルージュの影響なのかはわからないが、非常にシャイな人が多い。
しかし、話しかけるとすぐに人が集まってきて輪ができる。
やはり代表人気のせいか、サッカーに興味がある生徒が多いようだ。
英語で説明をすると、ほとんどの生徒が英語を話せるため、会話が成立する。
対戦相手が王者クラウンだったこともあり、興味を持ってくれる生徒が多かった。
しかし、残念ながら時間帯が夕方のため、確実に来てくれるという人はなかなか表れなかった。
それでも翔吾くんは諦めず学校中を回り、一人ひとりに対し、丁寧に説明した。
この日、話しかけた中には、「絶対サッカー好きじゃないだろう」というのような容姿の人や女の子もいたが、僕に「迷ったら行きます!」と言い残して何度も突進していった。
せっかく来ているのだからそれでも少しでも可能性がある限り、前を向いて仕掛ける翔吾くんの情熱を目の当たりにして、彼も「フォワード」の一員なんだなと実感した。
※タイガーFCを運営する会社名が株式会フォワード
その後、学校内にある日本語学科の授業に特別に参加させてもらい、他のカンボジア人と一緒に授業に出て、漢字のテストま受けた。(もちろん、満点だったが、こんな高レベルな漢字テストを受けているのかと驚いた)
そして、最後に少し時間をもらい、カンボジアンタイガーFCについて話をさせてもらえる機会をいただいた。
最初は何を話そうと緊張しきっていた翔吾くんだったが、いざ生徒たちの前に立つと、堂々とした話し方で自分の名前からタイガーFCについてまで質問を交えながら面白おかしく話すことができた。
生徒たちも最初は緊張気味で静かだったが、質問コーナーでは次から次へと難しい質問が飛んできて、対応に困りながらもそこにはたくさんの笑顔が生まれた。
最後に生徒、先生とみんなで記念撮影。
僕には過去に何度も現地の学校へ訪れた経験があるが、ここまで高いレベルの日本語を話し、日本語だけで会話が成立し、仲良くなれたのはここが初めてだった。
中にはトレーニングマッチを観に来てくれると言ってくれた生徒もおり、気づいたら僕も笑顔になっていた。
こういった日本に興味のある方々との交流の機会は本当に貴重だと思う。
これを機にひとりでも多くの人に日本、そしてタイガーFCに興味を持ってもらえ、カンボジアのサッカー発展に貢献していきたい。
そして、一番気になるのは果たしてこの中から一体、何人の生徒がスタジアムに来てくれるのだろうかということ・・・・・・
次回はトレーニングマッチ編を紹介します。
※現地でのより詳しい情報は今秋に出版予定の電子書籍で紹介します。
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