2015年7月2日
毎日、日照り続きで暑いカンボジアだが、この日は違った意味で熱かった。
試合開始直前にお天気雨が降ったものの、瞬く間に乾いてしまった。
つかの間の休息を経て、太陽が再び顔を出し、容赦なく僕達を照りつける。
そんな中、ピッチ上で躍動するオレンジの戦士達の姿があった。
スタンドにいる観客からあふれんばかりの大歓声が沸き起こる。
この日、ウエスタンスタジアムにいたスタンドにいる誰もが彼らの一挙手一投足に注目した。
今季からメトフォンカンボジアリーグに参戦した日系フットボールクラブ・カンボジアンタイガーFCにとってこの日は歴史的な一日となった。
カンボジアリーグは元々、3月に開幕予定だったが、カンボジア代表が史上初めてワールドカップ2次予選に進出するなど予期せぬ嬉しいサプラスがあり、7月にずれ込んでしまった。
そしてこの日、カンボジアンタイガーFCにとって記念すべきリーグ開幕戦を迎えた。
キックオフ5時間前
会場準備のためにスタジアムへ行ってみた。
ピッチ上では、大学生の試合が行われており、スタンドは両校の学生でそれなりに盛り上がっていた。
僕達もしばらく試合を見てみたが、あまりの日射しの強さで試合を直視できない。
死人が出てもなんらおかしくはない環境だ。
レベルはともかく、この暑さの中、90分間動いている彼らを尊敬する。
一方、気になっていた工事のほうはというと、スタンド中央のVIP席や時間と得点を表示する板、そしてスピーカーなどの音響設備は無事に設置されおり、試合が行えるまでの最低限の準備は整った。
しかし、選手控え室に入ってみると、依然として作業中で水浸しだった。
結局、この日は水道工事が間に合わず、トイレとシャワーは使用不可能。
スタジアムの外にはサトウキビはじめ、2、3台のジュース屋さんがやってきた。
味はさておき、この約30円のジュースが乾ききった僕の体に潤いを与えてくれる。
キックオフ1時間半前、ベンチ外の選手たちにも協力してもらい、会場設営を開始した。
日本ではベンチ外の選手が運営を手伝うことがあるが、実はカンボジアではそういったことがほとんどない。
なので、今回は翔吾くんが指導役となり、彼らに対して説明し、しっかりと理解してもらった上で作業をはじめた。
海外では、日本人が当たり前だと思っていたことでも現地の人にとってはそうでないことが多く、彼らをまとめるスタッフには臨機応変に対応できる柔軟性が求められる。彼らとの信頼関係を築く上でも、こういった細かいコミュニケーションが非常に重要なのだ。
こちらは、この試合で「チケット売り場に配属」された選手達。選手の奥さんを中心にスタジアムに来てくれた方々一人ひとりに 丁寧に説明する選手たち。
初めてのことで最初は戸惑っていたが、たとえ、ピッチの外にいても全力でチームに貢献する彼らの姿に感動した。
ちなみにこちらの大きな壁は、日本や世界中のスタジアムでよく見られるインタビューボード。
しかし、そもそもカンボジア人達はこれの存在自体をも知らないので皆、素通り。笑
今度、ホームゲームに来たらみんな写真撮ってね~!
そして、グラウンドでは選手たちがウォーミングアップ開始。
前回のTRMの時は審判が、今回は選手の登録などを管理する責任者が遅刻したせいで、まさかの20分間しか、時間が取れなかった。この辺りもカンボジアでは日常茶飯事なようだ。
そして、最も気になっていた観客はというと僕達の予想をはるかに超えるたくさんの観客が来てくれた。
これも地道に広報活動している翔吾くんのおかげだと思う。
皆、オレンジの紙を持ち、タイガーFCへの期待を胸に、いまかいまかと選手入場を待つ観客たち。
その観客たちがいるスタンドの端には、カンボジア初のビッグジャージが初お披露目。
このビッグジャージは、カンボジア国内でNo.1のサッカーサイト「cam-sport」でも紹介され、現在、マスコットのソンハーとともに話題となっているらしい。
そして、おなじみのFIFAアンセムが流れ、いよいよ選手入場。
タイガーFCの選手はスタッフ、控えの選手全員とハイタッチ!
タイガーガール、マスコットであるソンハーくんと撮影。彼、彼女達にとっても今日がデビュー戦なのだ。
キックオフ直前に観客をあっためはじめるソンハーくん。
今までのカンボジアにはなかった光景だ。
選手、スタッフ全員で戦う気持ちを再確認。
僕らには無限の可能性がある。
自分達を信じよう。
2015年7月2日
午後3時30分(ちょい過ぎ)
キックオフ
試合開始後もスタジアムにやってくる観客は増え続けた。
僕は彼らの対応をしていたのでそこまで試合に集中して観ることができなかった。
だが、スタジアムに入るやいなや、目を輝かせながらピッチを観つめる子供はじめ、「タイガーFCの応援がしたい!」と言ってくれる人たちが次々と来てくれたので嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
この時の僕にはそれで十分だった。
ここで何人か、ピッチで躍動する選手たちを紹介する。
リーグ開幕直前まで加藤オーナーと外国人枠を争い、現在、チームの中心選手にまでなったカメルーン人MFプライバット。
その見た目からは意外に思われるかもしれないが、彼はカンボジアリーグによくいるアフリカ人選手特有の身体能力を活かすCBやCFタイプではない。
日本人のような繊細さを持ち、視野も広く、ドリブル良し、パス良し、シュート良しというオールラウンダーなタイプの珍しいアフリカ人選手だ。
普段は、人懐っこい性格で友廣選手とともにチームのムードメーカーとしてピッチ外でも活躍している。
この試合では、中盤でボールを受けるとまわりに捌いたり、ドリブルで仕掛け、チャンスがあれば自らシュートを打った。また、後半途中からはFWとしてプレーした。
こちらは、「タイガーFCのNo.10」MFヴィラック選手。
元カンボジア代表で、数年前にタイでプレーしており、カンボジア人選手の中では少ない海外プレー経験があるベテラン選手。
この日は相手のマークに苦しんだが、後半、木原選手権監督が出てきた後は、マークも分散され、フリーになる場面も多くチャンスを演出。フル出場した。
無尽蔵のスタミナを持つ右サイドバック・ゴー選手。
後半、相手が疲れている時に何度も右サイトをオーバーラップし、脅威となった。
「カンボジアの長友」と呼ばれる日も近いはず。
タイガーFCの看板選手の1人MFスメイ選手。
現在もカンボジア代表に選ばれており、この日もゴールという形でその実力を見せつけてくれた。
カンボジア国内ではイケメン選手としても有名であり、女性に大人気。
9月には日本代表との対戦も期待できるので日本の皆さんは要チェック。
そして、印象的だったのはDF友廣選手。
開幕直前まで怪我に苦しめられていたが、この日は体を張ったディフェンスでポリスの攻撃を無失点に抑えた影の立役者。
特に空中戦にはめっぽう強く、ヘディングで競り勝つたびに歓声が上がった。
サッカーの試合では通常、どうしても攻撃の選手ばかりに注目が集まってしまうが、彼はディフェンスの選手ながら1番観客の心を掴んでいた。
こちらは、ドイツからやってきた期待の新戦力FW吉原選手。
前半は、187cmの長身を活かして前線でターゲットとなり、何度もチャンスを演出。
今回ゴールは決められなかったものの、ピッチ上でのその存在感は、迫力十分だ。
これからタイガーFCが勝っていくためには必ず彼の得点能力が必要になってくる。
そして、その吉原選手と交代で出場したのが木原選手兼監督。
前半はベンチから選手に指示を送る監督。
そして、後半途中
「交代→オレ」
若干27歳ながら公式戦でピッチ上の監督に。
自らプレーしながら指示するのは本当に大変だと思う。
しかし日頃の練習の結果、チームには「木原イズム」が浸透していた。
彼が出場してからよりテンポよくパスがつながるようになり、自らもチーム2点目となるゴールを決め、勝利に貢献。
日本を代表するドリブラーは、今年も健在である。
苦しんだが、結果は、2-0でカンボジアンタイガーFCの勝利!
見事、初勝利を手にすることができました!!!
勝利する直前、僕の横でスタッフの翔吾くんが嬉しくて泣きそうだと言って、感情が抑えられなくなったいた。
選手はもちろんのこと、スタッフもこの日のこの試合を盛り上げるために今まで全力で動いてきた。
慣れない環境で辛いことも多々あっただろう。
だがこの時、彼が流した涙はタイガーFCに対して本気で取り組んできた証拠。
この日、彼の人生に忘れられない瞬間が刻まれたに違いない。
おめでとう。
また今回、スタジアムでは、たくさんの観客の笑顔に出会うことができた。
僕は、この試合が始まるまでの数日間いろんなことを考えていた。
どうやったらスタンドにいる観客が盛り上がるのだろう。
どうやったらタイガーFCを応援してくれるのだろう。
でも、それはあまり意味がなかったのだと、この時わかった。
観客は、いま目の前で必死に戦っている「タイガーFC」というチーム全員の姿に心打たれ、応援している。
日本人も、カンボジア人も、皆「一丸」となってタイガーFCの背中を後押ししてくれていたのだ。
ピッチ上にいた11人だけでなく、、この試合を観に来ていた全員がこの試合に参加していた。
彼らはもう立派なタイガーFCの「サポーター」である。
選手、スタッフ、サポーター、ここにいたタイガーファミリー全員のおかげで勝利することができ、そして、みんな笑顔になれたのだろう。
この日、僕がスタジアムで見た光景は、カンボジアンタイガーFCがクラブの理想でもある「カンボジアの人達の希望の星」になり、輝き始めた瞬間だった。
そして、この試合のために日本からかけつけた加藤オーナー。
僕はこの試合で彼が日本で多くの人に愛されている理由がわかった。
通常、カンボジアリーグに限らず、世界中のサッカークラブのオーナーというと、金持ちで特等席に偉そうに座っているイメージがあるが、彼は違った。
このホーム・ウエスタンスタジアムにも一応、オーナーや偉い人が座る特等席はある。
加藤オーナーも最初は、形上、その席に座っていたが、もういてもたってもいられなくなり、試合開始直後に「下」に降りてきた。
そして試合前と同様、遅れてきた観客一人ひとりの目を見て、握手をし、「来てくれて本当にありがとう」と伝えていた。
彼の「異端児」ぶりはこれだけにとどまらず、観客に挨拶しながら試合中もずっと声を枯らしてピッチ上で戦う選手たちに声援を送っていた。
そして、得点シーン、FC東京監督時代の原博実氏ばりのガッツポーズで飛び上がっリ、誰よりも大喜びしていた。
しまいには、だんだん観客が盛り上がりはじめると、マスコットのソンハーくんとともに自ら観客を先導し、「タイガーコール」の大合唱で盛り上げ始めたではないか!
常識に捕らわれない誰もがお手本とするようなその姿勢に素直に感動した。
もう完全に「サポーターに近い愛されるオーナー」ですね。笑
オーナー、選手、そしてコールリーダーと全ての役目をこなしてしまう加藤オーナー。
そんな彼の姿は、カンボジア人にとってこれまでのオーナーというイメージをいい意味で払拭しただけでなく、閉鎖的なカンボジアサッカー界にセンセーションを巻き起こすに違いないと僕は確信した。
そして実は、この日は加藤オーナーの34回目の誕生日。
ビッグジャージも加藤オーナーの選手としての登録番号と年齢をかけた番号にした。
公式会見後にチームメイトからケーキの手荒い祝福。
きっと最高のバースデイになったことでしょう。
いろんな意味でおめでとうございました!
※加藤オーナーの試合後の公式コメントはこちらをクリック
そして、忘れてはならないのがもう一匹いる。
チームとともにこの日、デビューした「ソンハー」くんだ。
先日、初めて事務所にやってきた時は、無表情でクールそうに見えてちょっと恐かったが、意外と茶目っ気たっぷりな性格だったようで、スタジアムでは観客とスキンシップしまくりだった。
やはり、ソンハーもオスなのでかわいい女の子は大好きらしく、照れてる。笑
カンボジアの暑さにはまだ慣れてないようで、どさくさにまぎれて観客からさとうきびジュースをおすそ分けしてもらっていた。
サッカークラブのマスコットなので、サッカーもできるらしい。得意技は「ヒールリフト」。今後スタジアムで見せて欲しいものだ。
そして、試合後もサポーターに大人気だったようで、何度も写真を頼まれて、ちょっと調子に乗っていた。
だが今、彼には一つ悩みがあるようだ。
ソンハーとは、クメール語でハンサムという意味の名前だが、本人いわく、実際にカンボジア人に自己紹介してもほとんど無反応なのがすごく寂しいらしい。笑
なので、彼に会ったらソンハーと名前で読んであげてください。笑
なお、この日のソンハーくんの活躍の様子はカンボジアのyahooのようなサイト・SABAYにも掲載されたようです!
<ソンハーくんのイベントへの出演依頼等はクラブの公式サイトよりお問い合わせください>
↓↓↓
カンボジアンタイガーFC公式サイト
ファンドでご協力していただいた皆様、彼はカンボジアの地で躍動してます!
彼のイキイキとした姿を見ているとこっちも嬉しくなります。
本当に本当に大感謝です。
ありがとうございます!
(一平くんにも少しだけ感謝していると言っていました。どなたか、本人に伝えておいていただきませんでしょうか)
以上、開幕戦の様子を紹介しました!
明日は、第2節アウェイで昨年2位の強豪ボンケット・アンコールFCと試合です。
応援宜しくお願いします。
※試合後、スタジアムのゴミの片付けはいつもどおり、吉田GM、木原監督が率先してやっていました。素晴らしいチームワークですね!
コメント
コメント一覧 (2)
カンボジアと日本の双方にとっての希望の星となりますよう、加藤オーナーはじめカンボジアンタイガーFCの皆様を応援しています。
これからもをサッカーを通して現地の人々に笑顔になってもらえるよう精一杯努力しますのでこれからもよろしくお願いします。