メトフォンカンボジアリーグは、12チームが総当りでホーム&アウェイで対戦する全22試合。

この日、3分の1となる第8節を迎えた。

今季から参入したカンボジアンタイガーFCはここまで2勝3分3敗の8位。

ホームで行われた開幕戦では勝利したものの、そこからなかなか勝てず、勝点を積み上げるのに苦労した。

それもそのはず、なんと、7試合連続アウェイ戦というまさかのスケジュールだったのである。


そしてこの日、阪神タイガースのようなこの地獄のアウェイ 7連戦のラストのナーガ・コープFC戦を迎えた。





試合会場は第5、6節と同じく、プノンペンからバスで1時間ほどのところにあるナショナルトレーニングセンター。通称"Bati"である。(※元アルゼンチン代表バティストゥータとは一切関係ありません)

前回、僕は日本にいたのでBatiを訪れるのは今回が初めてだった。

試合は15:30キックオフ。

11:00過ぎに集合場所へ行くと、既に選手たちが集まっていた。

Batiまではこのバスで向かった。





この後、Batiまでの道中では、カンボジアならではというような光景に次々と遭遇した。


こちらは牛のおしり。僕らがイメージしている牛は白と黒だが、カンボジアの牛は元気なさそうにやせ細っている。そんな彼らを見ると、しばらく牛丼を食べるのをやめようかと思ってくる。


写真ではわかりづらいが、もうこれでもか!ってくらい斜めに停車しているトラック。

休憩地点で昼食を買う選手たち。


しかし、ここで唯一買うことができた食べ物はこのタイ製のラーメン。これじゃあ、食べられないと思っていたが、選手達はベビースターラーメンのように美味しそうに食べてるではないか・・・・・・

正直、これから試合なのに大丈夫かと本気で心配になった。


その後もバスは、まるでナメック星のようなカンボジアの原風景をひたすら走り続けた。


ジャングル。

ついに舗装していない道へ突入。だが、この揺れが体に振動を与えたことで、10年前に初めてカンボジアに来た時の記憶を呼び起こしてくれて、なんだか懐かしく感じた。

しばらく走るとついにBatiに到着。
途中までの道のりに土地はいくらでもあったのに、なぜこんなに何もない僻地にナショナルトレーニングセンターを作ったのか謎である。
 

試合開始1時間前くらいまでは自由な時間だったので、散歩するなど自由な時間を過ごしていたが、段々雲行きが怪しくなってきて、スコールが降ってきた。

「雨が大好き」と公言し、はしゃいでいたタイガーガールのルーシーだったが、時間とともに強くなる雨にはかなわなかったようだ。※サービスショット



この時期のカンボジアでスコールはほぼ毎日のように降る。

この日もどうせいつものようにすぐに止むだろうと思っていた。

がしかし、その後も雨脚は弱まるどころか、強くなる一方だった。

僕らはしばらく控室で待機していた。

だが、ふと、外の光景を見た瞬間、言葉を失った。




外は、まるで海のようだった。

目の前で起きていることが信じられなかった。




どう見てもこれは試合開催不可能だろうと思っていたが、ここはカンボジアである。

選手たちは引くどころか、この光景を見てなぜかテンションが上がっている。

これまで幾多の試練を乗り越えてきた木原選手兼監督は外に出て、気合いを注入。
テンションは上がっているが、中にはビビっている選手もいたのでそんな彼らに対して、プロならどんな状況でもしっかりと準備をして試合に臨まなければいけないということを伝えたかったのだろう。(たぶん)





こんな一見、おちゃめなこともする木原選手兼監督だが、その後のミーティングで僕は彼のこの試合にかける強い気持ちを感じることとなった。


木原選手兼監督は、この試合は今までにないくらい非常に重要な試合だとと話した。

相手は昨年3位で現在の順位がひとつ上のナーガ。

上位争いのライバルであるナーガに勝利すれば、ナーガに差をつけることができるだけでなく、一気に上位へ登る詰めることができる。 
 
 
そして、自身が満を持して今季初めてスタメン出場することになっていた。


木原選手兼監督は選手たちに向かって、

「(グラウンドが)こういった試合は技術よりも強い気持ちを持ったほうが勝つ。ただ、場面場面で冷静になることも忘れるな。」 

「俺達はまだ何も成し遂げていない挑戦者だ。その気持を忘れずに思い切って戦い、勝利を手にして帰ろう」
 

これは話していた中の一コマでしかないが、以前とは明らかに変わっていることがすぐにわかった。



僕がいなかったこの2週間の間、チームはなかなか勝つことができなかった。

そんな状況の中、きっと彼は誰よりも責任を感じ、もがき苦しんでいたのだろう。

そして、自分が選手として、監督としてできることを四六時中、考えに考えぬいて、この日を迎えた。



彼の口から発する言葉の一つ一つには重みがあり、僕は気がついたら彼の言葉に夢中になって聞いていた。

たった2週間の間だったが、この間の数試合が、監督としてどんどん成長している彼の姿を肌で感じることができて、僕は嬉しかった。


そんな監督を信じて選手たちはこの試合を戦った。
 



キックオフ直前、さっきまでの大雨はうそのように止んだ。



この日のスタメン

GK マイ

DF 友廣(日本)
DF ビッグター
DF セイハー
DF ゴー

MF ウドン
MF ペヤヤング(※焼きそばではありません)
MF ヴィラック
MF 木原(日本) ※キャプテン
MF ティー
 
FW プライバット(カメルーン)




この日の僕の仕事はビデオ撮影。撮影中、数十匹のハエが体中にまとわりついたが、耐えに耐えて撮影した。



ナーガのキャプテンは、かつてマリノスや新潟などでプレー経験のある深澤選手。カンボジアリーグでは珍しい元J1リーガー同士がキャプテン。



試合は息を呑むような白熱した展開だったが、1ー2でカンボジアンタイガーFCが勝利!


僕は、ずっとビデオ撮影していたのでゴールの瞬間、喜ぶに喜べず。

でもチームが勝利してくれたのが1番だったので勝利の瞬間はほっとした。



この試合の得点シーンの動画はこちら→カンボジアンタイガーFC Facebook公式ページ





また、終盤、ナーガの選手の腕が競り合った際に変な方向に曲がり、試合が中断した。(実際は負傷した選手のファールでイエローカードだった)

そして、なぜかこの画面右の白い車がグラウンドを横断し、助けに向かった。(一説には怒ったナーガのサポーターが向かったという話も流れたが、真意は不明) ※実際の映像はこちら


その後、選手はこの赤い救急車で病院へ向かった様子。


ナーガのこの運ばれた選手が怪我をした直後、うちのGKのマイがすぐにその選手の元へ向かった。

どうやら、この選手はマイの友人だったらしく、試合後も心配していた。

普段からチームメイト思いのマイの優しさが見れた一面だった。

一日でも早く回復し、また次回対戦できることを祈ってます。


 
その後、控室に戻り、木原選手兼監督が話をした。 

「あのナーガ相手にここまでできたのは本当に大きいが、やはり悔やまれるのは失点を0で抑えたかった。

みんなも90分間、集中力を切らさないで本当に頑張ってくれた。

だから今日の帰りのバスははみんなで一緒に勝利の喜びをわかちあいながらプノンペンに帰ろう。(=歌って騒いでok)
 
その代わり、寝て起きたら切り替えて、次の試合のためにしっかり準備をしよう。

もう次のホイッスルは鳴っているのだから」






この日、勝利はしたが、この時の僕は正直、すぐにこの状況を理解することができなかった。

喜ぶ選手たちを見て、なんだか宙に浮いているようなふわふわした感じだった。


だが、帰り際に木原監督が僕に「狩野さんが来てから初めて勝利をプレゼントすることができて嬉しいっす」と笑顔で言った。

僕はこの言葉に目頭が熱くなった。

やはり、スーパースターは違う。


彼のこの言葉のおかげで自分のチームが勝つとこんなにも素晴らしい気持ちになれるのか、こんなにも嬉しいのかということを感じることができた。

ありがとう。





Batiの夕焼けはきれいだった。

ほんの数時間前までは「Batiなんて何にもなくてハエだらけだし、嫌いだ」と思っていたが、みんなのおかげで一生忘れられない思い出の地となった。※芝生が削れている部分は車が走った後


帰りのバスの車内は、予想通り、お祭り騒ぎだった。

そして、前方の画面がついた瞬間隣に乗っていたスタッフの翔吾くんがぼそっと、「あぁ、これから地獄の始まりです」とつぶやいた。



その後、プノンペンに着くまでの数十分は爆音でカンボジアのカラオケPVが流れ、選手たちは大合唱。

普段だったら僕ら日本人にとってかなり苦痛な時間に違いなかったが、この時ばかりは勝利で心は満たされていたので楽しそうに歌っている選手たちを見て僕らも楽しんだ。


次は30日

いよいよ1ヶ月ぶりのホーム戦。

僕らスタッフもいい準備をして、試合に備えたいと思います。



これからもカンボジアンタイガーFCの応援よろしくお願いします! 



【リーグ開幕前】


【メトフォンカンボジアリーグ2015詳細】





・7/22 カンボジア一の「どアウェイ戦」を体感してきた カンボジアリーグ第7節スバイリエン vs カンボジアンタイガーFC